仕入編:食材の消費税が1%になると、納める消費税はどう変わる?確認すべき5つの論点
食材の消費税が8%から1%になる。仕入先への支払いは減ります。ここだけ見れば、良い話です。
ところが、本則課税で申告している飲食店では、納める消費税はむしろ増える方向に動きます。「安くなったのに、なぜ」と感じるところですが、仕入税額控除の仕組みを追うと理由が見えます。
この記事では、その構造を説明します。ただし金額の試算はしません。理由は下に書きます。
この記事の前提と、扱わないこと
- 確定:2026年9月15日に閣議決定された大綱の内容と、現行の消費税制度
- 未確定:法案は未提出です。事業者支援の内容・金額・時期も決まっていません
- 最終確認日:2026年9月17日
この記事では、納付税額の試算を行いません。matokaは飲食店の集客を支援する会社であり、税理士ではありません。モデル店の数字を置いて「◯円増えます」と示すことは、個別の税務判断に踏み込むことになります。代わりに、自店の数字を持って税理士に相談するための論点と質問を用意しました。
なぜ「仕入が安くなるのに納税が増える」のか
国税庁は、納付税額の計算をこう説明しています。
消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ、特定課税仕入れ等に係る消費税額を控除(仕入控除税額)して計算します
つまり「預かった消費税」から「払った消費税」を引いた差額を納めます。この「払った消費税」を差し引くことを、仕入税額控除といいます。

ここに今回の引下げを当てはめます。
売上側:店内飲食は外食にあたるため、軽減税率の対象外です。10%のまま変わりません。預かる消費税は減りません。
仕入側:食材は飲食料品なので、軽減税率の対象です。8%から1%になります。払う消費税が減ります。
払う消費税が減るということは、差し引ける額が減るということです。預かる額は同じで、差し引く額だけが小さくなる。だから差額=納める消費税は大きくなります。
ここを誤解しないでいただきたいのですが、納税額が増えた分だけ損をするわけではありません。仕入への支払い自体は減っているからです。手元から出ていくお金の総額がどう動くかは、売上構成と課税方式によって変わります。
ただしお金が出ていくタイミングは変わります。仕入代金は日々減り、納税は申告時にまとめて増える。資金繰りの山が変わるということなので、見通しは立て直す必要があります。
影響を受けるのは食材だけではない
もう1つ押さえておきたい点があります。国税庁によると、課税仕入れになるのは食材だけではありません。棚卸資産の購入、事業用資産の購入や賃借、広告宣伝費・厚生費・接待交際費・通信費・水道光熱費などの支払、事務用品・消耗品の購入などが挙げられています。
これらは飲食料品ではないので、10%のままです。つまり税率が下がるのは、課税仕入れのうち飲食料品にあたる部分だけ。食材費が原価に占める割合が高い店ほど、この影響を強く受けます。
なお、給与等の支払は課税仕入れに含まれません。一方で国税庁は「加工賃や人材派遣料、警備や清掃などを外部に委託している場合の委託料などは課税仕入れとなります」としています。人件費でも、自店の従業員か外注かで扱いが違います。
効き方は課税方式で変わる
ここまでは本則課税の話です。課税方式が違えば、効き方も変わります。
本則課税
上で説明したとおりです。実際の仕入を積み上げて差し引くため、仕入の税率が下がれば差し引ける額が直接減ります。店内飲食の比率が高い店ほど、納税は増える方向に動きます。
簡易課税
簡易課税は、実際の仕入ではなく売上の消費税額にみなし仕入率を掛けた額を差し引きます。仕入の税率が下がっても、その計算には直接は入りません。
ただし、持ち帰りの売上がある店では別の問題が出ます。大綱はこう書いています。
簡易課税制度の適用を受ける事業者においては、飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げの後も、現行制度上は飲食料品の譲渡について一定の納付税額が発生する一方、仮に本則課税を適用していれば納付税額が発生しない場合が多いと見込まれる。
これを受けて大綱は、特例対象課税資産の譲渡に対応する仕入控除税額は、業種区分にかかわらず売上税額と同額とする特例を設けるとしています。いわゆる2割特例・3割特例を使っている場合も同様とされています。
売上税額と同額を差し引けるということは、その部分については納付税額が出ない扱いになります。
免税事業者
消費税を納める義務が免除されているため、納税額そのものの増減はありません。ただし、仕入先からの請求が1%で正しく区分されているかは確認対象です。また、インボイス登録をしている場合は課税事業者なので、免税事業者ではありません。
確認すべき5つの論点
自店の影響を見積もるために必要な材料を、5つに整理します。どれも自店の帳簿から出せます。
論点1:売上に占める「外食」の比率
店内飲食と、持ち帰り・出前の比率です。店内飲食の比率が高いほど、預かる消費税は10%のままで、納税は増える方向に動きます。
論点2:課税仕入れに占める「飲食料品」の比率
食材費が課税仕入れ全体のどれくらいかです。この比率が高いほど、差し引ける額の減り方が大きくなります。家賃・水道光熱費・広告費は10%のままなので、ここには入りません。
論点3:酒類の比率
酒類は飲食料品から除かれるため、仕入も売上も10%のままです。酒類の比率が高い店は、今回の引下げの影響が売上側でも仕入側でも小さくなります。
論点4:自店の課税方式
本則課税か、簡易課税か、免税事業者か。論点1〜3が同じでも、ここが違えば結論は変わります。
論点5:2027年4月1日が入る課税期間
個人事業者と法人では課税期間の区切りが違います。大綱の届出の特例は「その課税期間の末日まで」という設計なので、自店の課税期間が分からないと、いつまでに判断すればよいかが決まりません。
大綱に用意されている逃げ道
納税が増える方向に動くこと自体は、制度の設計側も想定しています。大綱には、判断をやり直せるようにする措置が並んでいます。
届出の期限が緩和される
通常、課税事業者になることを選ぶ届出や、簡易課税をやめる届出は課税期間が始まる前に出す必要があります。2027年4月1日をまたぐ課税期間がすでに始まっていると間に合いません。
大綱では、課税事業者選択届出書と簡易課税制度選択不適用届出書について、その課税期間の末日までに提出すれば、初日の前日に提出したものとみなすとされています。さらに、簡易課税を選んだら2年間変えられないといういわゆる「2年縛り」も適用しないとされています。
つまり、動いてみてから判断し直せる余地があります。
中間申告を実態に合わせられる
中間申告の税額は前年の納付額をもとに計算するため、納税額が減る事業者では過大になります。大綱では、特例税率が適用されたものとして計算した中間申告税額(税額がない場合は零)を記載できるとされています。
移行の費用にも支援が示されている
大綱には、簡易課税・免税事業者が本則課税事業者に移行する際の相談対応や、税理士費用等の経費に対する支援を行うことが書かれています。
ただし「予算編成過程において支援内容を具体化する」とされており、金額も要件も時期も決まっていません。支援があることを前提に移行を決めるのは、まだ早い段階です。
税理士に持っていく数字と質問
ここが、この記事のいちばん実用的な部分です。次の数字を用意して、次の質問をすれば、相談は一度で済みます。
用意する数字(直近1年分)
- 売上:店内飲食/持ち帰り・出前/酒類の3区分の金額
- 課税仕入れ:食材費と、それ以外(家賃・水道光熱費・広告費・委託料など)の金額
- 自店の課税方式と課税期間
そのまま使える質問
- 当店の場合、2027年4月以降の納付税額は増える方向か、減る方向か。ざっくりでよいので方向を教えてください
- 増える場合、資金繰りのどの時期に影響が出ますか
- 当店は課税方式を見直す検討対象になりますか。なる場合、判断の期限はいつですか
- 大綱の中間申告の特例は、当店に関係しますか
- 当店が本則課税へ移行する場合の実務負担(記帳・保存)はどの程度増えますか
答えをメモしておいてください。法案の内容が固まったときに、もう一度同じ相談をせずに済みます。
まとめ
- 納付税額は「預かった消費税 − 払った消費税」。払う額が減れば、差し引ける額も減る
- 店内飲食は10%のまま、食材の仕入は1%。だから本則課税で店内中心の店は納税が増える方向に動く
- ただし増えた納税額=同額の損ではない。仕入の支払い自体は減っている。変わるのはお金が動くタイミング
- 税率が下がるのは課税仕入れのうち飲食料品の部分だけ。家賃・水道光熱費・広告費は10%のまま
- 給与は課税仕入れに含まれないが、外注の委託料は含まれる
- 簡易課税には別の特例。特例対象の譲渡に対応する仕入控除税額は売上税額と同額とされる
- 確認すべきは外食比率・食材費比率・酒類比率・課税方式・課税期間の5つ
- 大綱は届出期限を緩和し、簡易課税の2年縛りも外している。あとから判断し直せる
- 本則課税への移行には税理士費用等への支援が示されているが、内容・金額・時期は未定
この記事では金額を出していません。自店の数字は自店にしかなく、判断は税理士の領域だからです。ただ、何を用意して何を聞けばよいかが分かっていれば、相談は驚くほど早く終わります。まずは5つの論点の数字を出すところから始めてください。
出典
- 国税庁No.6451 仕入税額控除の対象となるもの(2026年9月17日確認)
- 国税庁No.6505 簡易課税制度(同)
- 国税庁軽減税率制度の概要(同)
- 内閣官房飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱(令和8年9月15日 閣議決定)
本記事は2026年9月17日時点で公表されている資料にもとづいています。matokaは飲食店の集客を支援する会社であり、税理士ではありません。本記事は税務に関する個別の助言ではなく、納付税額の試算も行っていません。自店の判断は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
投稿者プロフィール
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飲食店専門のWEB集客支援を行う、matoka株式会社(東京都品川区西五反田)の編集チームです。
普段の仕事は、Googleビジネスプロフィールの運用と口コミ対応(MEO対策)、食べログ・ホットペッパーグルメなどグルメサイトの運用代行、SNS運用とホームページ制作、訪日外国人向けの多言語対応、AIを使ったMEO支援(droptip)、そして成果報酬型のインフルエンサーPR「clues restaurant」の運営です。
このブログには、その現場で実際に手を動かして分かったことを書いています。AI検索(ChatGPTなど)に自分の店がどう出るかの確かめ方、口コミ返信やGoogleマップ投稿の時短、グルメサイトとMEOの使い分け、多言語メニュー、求人票、決済まわりのリスクまで、テーマはすべて店舗からの相談が出発点です。
編集方針は2つあります。営業の合間にスマホで読んでも、その日のうちに1つ試せる形で書くこと。そして成果を保証せず、うまくいかない条件や向かない店舗も併せて書くことです。
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